この話は、主人や子ども達には語らないでおこうと、私の胸に秘めてきました。
ですが、時折、まだ自分がこの世に生かされていると感じた時、堪らなく誰かに聞いてほしくなる時があります。
今日は、どうかこの年老いた私の呟きを、皆さん、聞いてくださいね。
私は、女子学生の頃、あの太平洋戦争を経験しております。
当時、私には愛する人がいました。
その方は、後に特攻隊員として海へと散っていきました。
特攻隊というと空のイメージを持たれている方が多いかもしれませんが、「人間魚雷」として、爆薬と共に敵艦へと突撃していく生還することのない任務に彼は就いていました。
出陣される前に、今でいうピクニックのようなものを想い出としてしました。
ただ、現在のように、男女二人だけでというのは憚られる時代だったため、私の小さかった弟も一緒に行ったのを覚えています。
また、人前で手を繋ぐことなどできなかった時代ですが、おにぎりを手渡す際に触れ合った手の温もり、今でも忘れることはありません。
必ずあなたのもとへ帰って参ります。
その時は、結婚しましょう。
叶わぬ夢だとお互いがわかっていました。けれども、彼の生きる希望になるであればと思い、私は「お待ち申しております・・・どうかご無事で・・・」と涙ながらにお答えしました。
私も親戚宅へと疎開していたこともあり、彼がお国のために大海へ散っていったことを知ったのは、戦争が終わって暫く経ってからのことでした。
彼は戦地へ赴く前、仲間たちと訓練所では明るく笑顔で過ごしていたと聞きました。
誰もが散っていく命だとわかっていても、虚しい現実を直視しないようにして、必死で恐怖に耐えていたのかもしれません。
そして、身体じゅうで、生命の息吹の一瞬一瞬を捉え、感じながら、残された日々(限りある命)を大切に過ごしていたのでしょう。
あなたが命をかけて守ってくださったお陰で、私はこうして幸せに暮らしてこられました。
息子が、そして、今では孫達があの頃のあなたと同じ歳になり、あなたを独りで逝かせてしまったことに胸が張り裂けそうになります。
若くして散っていったあなたにも、きっと見果てることのない夢、未来、希望があったことでしょう。
もうすぐ私もそちらへ参ります。
あなたの描いたその夢に私が描かれていたのであれば、どうかあと少しだけ待っていてくださいね・・・
歌手:加藤登紀子
作詞:加藤登紀子
作曲:加藤登紀子