オリビアを聴きながら
ねぇ、聞いてもいいですか?
年齢差のある恋について・・・
しかも、相手が自分よりも、うんと歳下の男性だったら・・・
あなたはどう思いますか?
私は故郷で夢だった小さなアトリエを開いてるアラフォーです。
美大生時代に卒業旅行で訪れたドイツで、やわらかな色彩のステンドグラスにすっかり魅了されて、異国の地で長い月日を修行してきました。
今では、有難いことに、制作のオーダーも少しずつ入るようになり、レッスン教室に参加してくれる生徒さんも増えてきました。
私のアトリエに足を運んでくださる生徒層は、「人生の余暇に」とご年配の方が多いです。
そんなある日、まだ少しネクタイ姿が初々しい感じのサラリーマンが一人、入会したいと現れました。
ジャスミンティーを飲みながら彼の話に耳を傾けると、学生時代に美大で学んでいたこと、その道を極めたかったけれども、自分の力量を感じ夢を諦め、就職したことなどを語ってくれました。
そして、電車の窓からふと外を眺めていると、あったかい光が灯る場所が見え、ひと駅前だけど降りてここまで歩いて来てしまったのだとか・・・
ぬくもりのある色とりどりのガラスを見ていると、学生時代が懐かしくなり扉をノックしたそうです。
私は、自分のアトリエがそうやって誰かの心を癒せる空間になれることを嬉しく感じ、彼を受け入れることにしました。
それから数ヶ月が経ち、さすが美大に通っていたというだけあって、「一を聞いて十を知る」彼の吸収力、そして繊細なタッチに独創的な色使いと、本当に見る者の心を惹きつける作品を一つまた一つ、彼は仕上げていきました。
ある時、保育園からのオーダーの制作に悩んでいた私は、彼に意見を求めることにしたのですが、デザインや色彩案にとどまらず、気づけば二人でガラス工房へと車を走らせていました。
夜な夜なアトリエで彼と共に、子ども達が大好きな童話の世界の住人たちに命を吹き込む日々。そして、私達はこの作品を通して、お互い、惹かれ合っていったのでした。
彼との作業は阿吽の呼吸でしたし、独りの時間が長すぎた私にとって、とても居心地のよい空間でした。
けれども、彼はサラリーマンとして日中働き、仕事帰りにここへ駆けつけてくれていたのですから、当然疲れも溜まってきていたと思います。
時折ランプのほのかな光により、疲れた表情が浮き彫りになるのを見ると、彼の優しさに甘えていることに対し、日増しに私の中で罪悪感が膨らんでいきました。
それでも、彼の来訪を待ち望んていた私は、心の中でこう呟くのでした。
この作品が出来上がったら、彼を解放します・・・
それまで、神様、もう少しだけ、お許しください・・・
あれから一年という時を経て、ようやく完成した作品を眺めながら、彼は私に問いかけました。
「ねぇ、一番好きな童話は何?」
私はそっと「人魚姫」と答えました。
数多あるプリンセスの中で、愛する人のために身を引き、最後は泡となって消えてしまう彼女の姿に、私はいつしか自分の未来を重ねていたのです。
彼の想いを知っていながら、私が一方的に辿り着いた結論は、間違っているのかもしれない・・・
そんなふうに心揺れることもあります。
ですが、お披露目式の後、私は彼にこう伝えるつもりです。
「あなたは、私のアトリエに来て、作品たちに癒されたの。
あなたは作品を通して、私に惹かれただけ。
きっと幻を愛したのよ・・・」
歌手:杏里
作詞:尾崎亜美
作曲:尾崎亜美