負けないで

恋には色んな形がある。

大人の人から見たら、中学生の恋は、恋のうちに入らないかもしれない。

だけど、子どもは子どもなりに一生懸命に恋をしてるんだ!

 

小学生の頃だって「好きだな~いいな~」と思う子はいたけど、兄弟みたいにみんなで楽しく過ごしている中で芽生えた感情だったと思う。

あれを初恋かというと、違うって言いきれる私がいる。

だけど、今回のは絶対に「恋」だ!!

 

f:id:black-orchid:20210917124542j:plain

私の心を躍らせたのは、同じ学年のサッカー部のエース。

彼は、勉強は苦手だけど、運動のセンスはピカイチ。

ただ、彼の凄いところは、才能にかまけることなく、誰よりも朝早く来て、そして部活終了後も一人だけグラウンドに残って、毎日一生懸命練習に取り組んでいたところだ。

 

ひたむきな彼は、凄く凄く眩しかった。

偶然にもその姿を知った時、「自分も頑張らなきゃ!」と勝手に勇気を貰い、次の日から彼がグラウンドにいる間は、私は教室や図書室で受験勉強に取り組むようになった。

 

そんな生活を送ってると、自然と登下校が同じ時間帯になり、距離がグッと縮まった。

ラッキーなことに同じ通学路だったから、二人で会話する時間も増え、友達以上恋人未満っていうのかな、そんな感じになっていった。

 

 

そして、中学3年生の秋。

進路を考える時期になると、二人とも同じ高校を考えるように・・・

 

 

でもね、それは無理な話。

だって、彼はスポーツを優先させてきた人だったから、私が望む志望校へは到底届かなかった。

彼の口から「頑張るから!俺、諦めないから!」という言葉を聞くたびに、どんどん胸が苦しくなった。

 

大人たちはこんなことを言うとバカだなって失笑するかもしれないけど、あの時の私は彼と一緒にいつまでもずっといたかったの。

だから、いつしかこんな考えが頭をよぎるようになっていた。

f:id:black-orchid:20210915153851j:plain

志望校、下げようかな・・・

 

その言葉を口にした時、彼に言われた。

「頑張るお前が好きだったのに。俺のために諦めるなんて、言うなよ。俺がお前を苦しませてるなら、俺たち、別れよう。」

 

あぁ、なんてことなの!?

受験間近の大事な時期に、失恋してしまった・・・

 

暫くの間は、何もする気が起きなかった。

塾も休んだ。

その間、ずっと聞いていたのは、彼との思い出のCD。

 

このまま恋も受験もどっちもダメになるなんて、それだけは絶対に嫌だ・・・

そんな恥ずかしい私を彼には見られたくない・・・

 

それからは、とにかく必死に机に向かった。

「わき目もふらず」とは、まさしくこのことを言うのねってくらいに。

 

晴れて高校に合格し、入学式の朝。

f:id:black-orchid:20210917124339j:plain

 

玄関の扉を開けると、そこには同じ高校の制服を着た笑顔の彼が立っていた。

 

え・・・!?

 

難関と言われて少数しか入れない『スポーツ推薦枠』を彼は見事勝ち取っていたのだ。

失恋したはずなのに、こんなにも清々しい恋をしていたなんて、これって私の生涯の宝物かもしれない。

そんなふうに、今、あなたに恋したことを心から誇りに思える私がいる。

 

負けないで

歌手:ZARD

作詞:坂井泉水

作曲:織田哲郎

 

異邦人

大学受験に失敗した私は、予備校に通うことになった。

高校の時みたいに3年間苦楽を共にした仲間とも離れ、独りぼっちの戦いが始まった。

周りの浪人生たちを見渡すと、チャラい感じの子もいれば、何浪かしてる感じで切羽詰まった雰囲気のがり勉タイプもいた。

私と似たようなタイプがいなくて、かえって授業に集中できるかと思っていたけれど、今にして思えば、それがあの頃の私にとっては、果たして良かったのか・・・

f:id:kinako_sensei:20210822203838j:plain


教室の一番前で授業を受けるのが日課になっていた私。

とにかく学力をつけて、こんな孤独な場から少しでも早く卒業したかった。

 

高校の先生達とは違って、さすがプロって思えるくらい、熱のこもった授業が毎日行われている中、絶対に生徒と目を合わせようとしない講師が一人だけいた。

問題集と黒板だけを見ているのに、教え方は上手かった。

でも、何より、教室の雑音があったとしても、耳に入ってくる先生の声が、私の中に沁み込んでいく不思議な感覚に私はいつしか酔いしれた。

 

教室内では、先生も孤独。私も孤独。

なんだか、シンパシーを勝手に感じてしまった。

f:id:kinako_sensei:20210822111533j:plain

 

それからは、今では一番嫌いだった古文が、自分でもビックリするくらい興味がわいてきて、質問に講師控室を訪れるまでになっていた。

 

どれだけ通っただろう。

先生が古典の世界観を語る時、授業の時よりも言葉に熱量を感じる。

私も同じ温度を感じたくて、先生の声だけに集中する。

あぁ、まるで二人で時空の旅をしているみたい。

私も、先生みたいになりたい・・・

 

いつしか、先生の出身大学への進学を私は決めていた。

 

 

大学入試結果発表の日。

f:id:kinako_sensei:20210822113157j:plain

先生のお陰で、私、合格したよ!!

嬉しくて、合格通知を握りしめて、予備校に向かって駆け出していた。

先生、きっと、喜んでくれるだろうな!!!

 

格通知を見た先生からかけてもらえる言葉や笑顔を想像しながら、私は高鳴る鼓動を押さえて、扉をノックした。

扉を開くと、そこには他学部を受験した生徒達も報告にやって来ていた。

 

先生は、私の合格通知を確認し、発した言葉はこれだった。

「おめでとうございます。これからも頑張ってくださいね。」

 

f:id:kinako_sensei:20210822113539j:plain

その時、初めて気づいたの。

あなたにとって、私は、大勢の中の一人だったのね・・・って。

 

まるで、それまでの日々が高熱にうなされてる中で見た幻影のように、崩れ去っていく。

自宅までの帰り道、頭がぼんやりして、いつも見慣れた風景がモノトーンに私の目には映っていた。

どれだけの時間が過ぎたんだろう。外は真っ暗になっていた。

 

このままで終わってしまっていいの?

 

机の灯りをつけ、引出しから便箋を取り出した。

最後に、せめて募った想いだけは伝えようと・・・

 

でもね、いざ 書こうとすると、笑っちゃうんだけど、何も書けなくて。

 

そっか・・・

本当は、私、先生の何も知らなかったんだね・・・

 

先生にとっても、きっとそうなんだろうな。

お互い、道行く途中、ほんの一瞬、すれ違っただけの関係だったんだね。

何かが始まることすらなかった、私の一方的な片思い。

自分で消すしかないんだよね・・・

 

そして、私は手紙に書いた。

「先生、有難うございました。さよなら。お元気で。」

 

異邦人

歌手:久保田早紀

作詞:久保田早紀

作曲:久保田早紀

 

時には昔の話を

この話は、主人や子ども達には語らないでおこうと、私の胸に秘めてきました。

ですが、時折、まだ自分がこの世に生かされていると感じた時、堪らなく誰かに聞いてほしくなる時があります。

今日は、どうかこの年老いた私の呟きを、皆さん、聞いてくださいね。

 

私は、女子学生の頃、あの太平洋戦争を経験しております。

当時、私には愛する人がいました。

その方は、後に特攻隊員として海へと散っていきました。

特攻隊というと空のイメージを持たれている方が多いかもしれませんが、「人間魚雷」として、爆薬と共に敵艦へと突撃していく生還することのない任務に彼は就いていました。

f:id:kinako_sensei:20210821135300j:plain

 

出陣される前に、今でいうピクニックのようなものを想い出としてしました。

ただ、現在のように、男女二人だけでというのは憚られる時代だったため、私の小さかった弟も一緒に行ったのを覚えています。

また、人前で手を繋ぐことなどできなかった時代ですが、おにぎりを手渡す際に触れ合った手の温もり、今でも忘れることはありません。

 

必ずあなたのもとへ帰って参ります。

その時は、結婚しましょう。

 

叶わぬ夢だとお互いがわかっていました。けれども、彼の生きる希望になるであればと思い、私は「お待ち申しております・・・どうかご無事で・・・」と涙ながらにお答えしました。

f:id:kinako_sensei:20210821143206j:plain

 

私も親戚宅へと疎開していたこともあり、彼がお国のために大海へ散っていったことを知ったのは、戦争が終わって暫く経ってからのことでした。

 

彼は戦地へ赴く前、仲間たちと訓練所では明るく笑顔で過ごしていたと聞きました。

誰もが散っていく命だとわかっていても、虚しい現実を直視しないようにして、必死で恐怖に耐えていたのかもしれません。

そして、身体じゅうで、生命の息吹の一瞬一瞬を捉え、感じながら、残された日々(限りある命)を大切に過ごしていたのでしょう。

 

あなたが命をかけて守ってくださったお陰で、私はこうして幸せに暮らしてこられました。

息子が、そして、今では孫達があの頃のあなたと同じ歳になり、あなたを独りで逝かせてしまったことに胸が張り裂けそうになります。

 

若くして散っていったあなたにも、きっと見果てることのない夢、未来、希望があったことでしょう。

もうすぐ私もそちらへ参ります。

あなたの描いたその夢に私が描かれていたのであれば、どうかあと少しだけ待っていてくださいね・・・

f:id:kinako_sensei:20210821141751j:plain

 

時には昔の話を

歌手:加藤登紀子

作詞:加藤登紀子

作曲:加藤登紀子

 

Flavor Of Life

大学生って、不思議な期間だよな。

大人でもない、子どもでもない。

中途半端って言われてしまえばそれまでなんだけどさ。

理解できるのは、同じ大学生だけなのかもしれないな。

f:id:kinako_sensei:20210821144652j:plain
 

あなたが屈託のない笑顔でそう語ったあの日。

あなたに淡い恋心を3年間抱き続けた私は、今まさにその想いを伝えようとしていた瞬間だった。

 

でも、その言葉を聞いた時、伝えることで、そんな居心地のいい関係までも失ってしまうことが急に怖くなった私は、結局再び自分の胸にそっとしまい込んだのだった。

 

確かに、私達は「恋人」でもなく、「友達」でもなく、そう、それはまるで何でもわかりあえて、何もかも相談できる「親友」というような関係。

一見、安定した関係に見えるけど、そうじゃないんだよ、きっと。

 

あなたが誰かのものになってしまった時、これまで何気なく出来ていた会話も出来なくなってしまうと、私は思ってる。

あぁ、今の私は、なんとも言えない「切なさ」に押しつぶされそうだよ。

 

 

大学を卒業し、一年が過ぎた。

お互いが社会人として、久しぶりに出会った日。

f:id:kinako_sensei:20210821145104j:plain

ようやく、「親友」から安定の「恋人」の関係へと進んだ私。

 

愛してるよ

 

嬉しいんだけど、なんだか素直に受け止められない私がそこにはいた。

あなたには「大好き」って言葉の方が似合ってた・・・

 

その時、初めて気づいたの。

私が恋していたのは、「あの頃のあなた」だったんだと。

 

お互い社会人になって、社会の荒波に揉まれ、色んなこと経験して、あの頃のままの自分でいられるはずもないのにね・・・

私、あなたに「あの頃のあなた」を求めていたみたい・・・

f:id:kinako_sensei:20210821145348j:plain

 

でも、この一年間、私の傍にいてくれたのは、紛れもなく「今のあなた」。

この一年、大好きなあなたと一緒に過ごせて、幸せであったことには変わりはない。

でも、理想と現実のはざまで揺れ動く私がいる・・・

 

この戸惑いがなくなるまで、あなたの傍に居続けたら、私の中でも答えが見つかるのかな。

あなたからの言葉に心から喜べる日が来るのかしら。

 

Flavor Of Life

歌手:宇多田ヒカル

作詞:宇多田ヒカル

作曲:宇多田ヒカル

 

Rainy Blue

二年前の今日、私の最後の恋が終わった。

 

出会いは同じ職場というありきたりのもので、私は彼よりも5歳年上の先輩だった。

 

お互い、地方出身者で、誰に気兼ねすることもなく、自然と一緒に住むようになった。

職場では同じプロジェクトを任され、深夜までトコトン二人で話し合った日々。

会社での愚痴もお互いスッキリするくらい吐き出して。

お互い、阿吽の呼吸で仕事もこなして。

なんだか、二人でいれば、無敵のような感じがしていた。

 

そんなこんなで支え合って五年間付き合ってきたけれど、いつしか「結婚」という二文字のタイミングが正直わからなくなっていた。

 

このままでもいっか・・・

夫婦って空気みたいって言うし、何も形式にこだわらなくても・・・

 

でも、そう思っていたのは私だけだった。

彼の中では「夫婦」っていう感覚よりも、「同志」って感じになっていたらしい。

まぁ、振り返ると、確かに仕事の話が多かったかな・・・

彼は、次第に二人の空間にいることに疲れてしまったそうだ。

それを聞いて私は、彼を責めることもせず、引き留めることもせず、二人の関係にピリオドを打った。

 

何故かって?

おそらく、私の「大人の女」としてのプライドがそうさせたのだろう。

f:id:kinako_sensei:20210821100218j:plain

 

それからは再び先輩と後輩の関係に戻った私達。

たぶん多くの別れを選んだカップルがそうであるように、二人でいる時間が長かった分、私にも喪失感や虚無感が生まれた。

それらに飲み込まれないよう、がむしゃらに仕事に打ち込み、とにかく独り物思いに耽る時間を作らないようにする日々だった。

 

 

そんな私の姿を神様も哀れんだのだろうか。

半年後、彼の異動が決まり、私達は社内で顔を合わせることもなくなった。

その辺りから、友人達も「次にいけ」と言わんばかりに、週末は合コンをセッティングしてくれ、今では休日を過ごすヒトも出来た。

お陰で、彼の幻を見ることもなくなったような、そんな気が私もしていた。

 

でも、それは、私自身も気付いていなかった強がりだったのかもしれない。

 

f:id:kinako_sensei:20210821121026j:plain



夏の夕立が降る直前、少し蒸し暑さを感じる中、私は駅へと足早に歩いていた。

そんな帰路につこうとする雑踏の中、ふと懐かしい香りが・・・

 

それは、彼が二人の時にだけ付けていた香り・・・

 

止まることのない人の流れの中、懸命に辺りに彼の姿を探す私。

どこにいるの?

 

次第に遠ざかっていく香りに、心の中で必死に叫ぶ。

行かないで・・・

 

どれくらいの時間が経ったのだろうか。

空は黒い雲で覆われて、ポツリポツリと雨が降り始めていた。

 

立ち尽くす私の身体は、何故だか少し火照っていた。

一瞬だけど、彼の温もりを感じたせいだろうか。

 

f:id:kinako_sensei:20210821095047j:plain

もう暫く、この雨に打たれよう。

彼の温もりも、香りも、消えてゆくまで・・・

もう暫く、この雨に打たれよう。

彼との想い出が、涙で消えてゆくまで・・・

 

Rainy Blue(レイニーブルー

歌手:徳永英明

作詞:大木誠

作曲:徳永英明

編曲:武部聡志

 

これは誰かの物語

 

私達の周りには、数多くの素敵な曲が溢れている。

 

 

同じ歌詞でも、聞く人の置かれている状況によって、また雰囲気が変わるものである。

 

 

ここには、そんな誰かの物語のひと雫が描かれている。

 

 

主人公達の心の声に、そっと耳を傾けてあげてほしい。